見えないボール
つばくらめ

閉め切られた直方体
その中で
向かい合って
投げているのは見えないボール
そのひとつひとつを
正面の相手が弾き返す
まっすぐ伸びた腕
しなやかな肘
打撃音
右腿への苦痛


いつからなのかも思い出せない


眩暈がするよな壁の白さ
窓がないから
昼、夜もない
放り続ける見えないボール
蒸し暑い
べっとりと滲む額
背中にはまだ
大量のボールが残ってる


周りがみな楽しそうに笑う
本人以外のニンゲンが


賞賛がなければ暴言もない
敵がいなければ味方もいない
ただずっと
見つめているのは見えないボール
部屋の隅に重ねられた
知識、プライド、劣等感
空を切る右手
武器なんて何も持っていない


ねえ知ってる、
あのひと、こんど父親になるんですって


こんなことをしてる間も
時計の針は
執行猶予を削りとる
追加されるは見えないボール
投げ終わるときを待ちながら
今日も夕食で
食べ残した時間を
惜しげもなく排水溝に捨てる


自由詩 見えないボール Copyright つばくらめ 2008-05-14 22:41:31
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