温室
石瀬琳々

ポケットのビスケットが
粉々に砕けて割れた
壁にじっと押しつけていたせいで
鳥が飛び立つのを見たかった
小さなクロツグミが羽を広げるのを
僕はしくじった
ビスケットは無残に割れてしまった


 音もなく
 樹木の葉がゆれた
 何かの合図みたいに
 まるで
 鳥が飛び立ったあとの
 はじけた時間
 雨が降るのを夢想する
 ガラスの空をやわらかく伝い


 (僕はまだ閉じこめられたまま)


ポケットのビスケットは
傷ついたハートみたいだった
あの子にあげようと思っていたのに
あの子の笑顔が見たかった
三色すみれの花がこぼれるのを
僕はしくじった
約束の時間は過ぎてしまった



自由詩 温室 Copyright 石瀬琳々 2008-05-14 13:48:15
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