温室
石瀬琳々
ポケットのビスケットが
粉々に砕けて割れた
壁にじっと押しつけていたせいで
鳥が飛び立つのを見たかった
小さなクロツグミが羽を広げるのを
僕はしくじった
ビスケットは無残に割れてしまった
音もなく
樹木の葉がゆれた
何かの合図みたいに
まるで
鳥が飛び立ったあとの
はじけた時間
雨が降るのを夢想する
ガラスの空をやわらかく伝い
(僕はまだ閉じこめられたまま)
ポケットのビスケットは
傷ついたハートみたいだった
あの子にあげようと思っていたのに
あの子の笑顔が見たかった
三色すみれの花がこぼれるのを
僕はしくじった
約束の時間は過ぎてしまった