アンテ


雨戸をしっかり閉める
窓をしっかり閉じて
鍵をかける
電気機器のコードをすべて抜いて
ガスも水道も止めて
明かりも消して
それでも
どこからか音が聞こえてくる
時計の電池を抜いて
換気扇を回らないようにして
壁のものをぜんぶ外して
もう動くものはない
はずなのに
なぜまだ音がするのだろう
窓ガラスに耳を押し当ててみる
雨はとっくに止んだ
風も吹いていない
わたしはいったい
なにに怯えているのだろう
わからない
きっと
わたしのものではないなにかが
まぎれ込んで
別のだれかの意思で動いているのだ
暗がりのなか
床にうずくまる
耳をふさいでも
息をとめても
目を閉じても
とまらない
ああ
そうか
わたしの心臓がまだ動いている
血液が
神経細胞が
眼球が
ぱらぱら
ぱら
しずくがなにかに弾ける音
へんだ
水道はしっかり止めたはずなのに
ち・よ・こ・れ・い・と
垣根のむこうから
かすかな声
床のフローリングが
ひんやりして気持ちよくて
たっぷり太陽の光があたる場所で
冬を越して春がくれば
きっと芽が出るでしょう
そうか
あの柿の木の芽が
成長している音にちがいない
なんとか身を起こす
暗がりのなか
どちらへ進めばいいか迷っていると
なにもなかった場所に
かすかな光がともる
ひとつ
またひとつ
しだいに増えて
繋がりあって複雑な輪郭をえがく
くすくす
笑い声がする
人の背丈くらいある
鍵をかけたのに
だれも入れるはずがないのに
後ずさるうち
背中が窓ガラスに行き着く
とっさに窓をあけて
雨戸をあけて
外へ転がり出ると
生あたたかい土の感触が
風の流れが
太陽の陽射しが
いつもの庭に満ちている
土のうえに仰向けに寝転がったまま
空を流れる雲を見ていると
どちらが動いているのか
判らなくなる
くすくす
笑い声がする
早く芽が出るといいね
垣根の葉が揺れる
そうね
うなずく




自由詩Copyright アンテ 2008-05-14 00:33:22
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