夜の声
木立 悟





波線の午後を
すりぬける腕
指の大きさ
夜のまぶしさ
花に埋もれ 花となり
花を生み 花を摘み


深く鏡を被る人
無数の火の穂の歩みの先へ
冬の浪の浪の浪へ
着込んだ蜘蛛をたなびかせている


木と木のはざまに嵐があり
嵐と嵐を木が引き裂いている
木と嵐の他には何もない夜
とどろきは嘘をつくことはない
どこまでもただとどろきのまま
空のすべてを圧している


鉄に鏡のかたちが映り
鏡に鉄が入り込む
夜の色
聞こえつづける
会話の色


森は
忘れられた排水溝にあり
雷光も共にそこにあり
流れる水を緑にする
道が気づくことのない緑


鎧を脱いだ言葉の群れが
月あかりの下じっとしている
鏡に映る火のなかへ
蜘蛛と光は去ってゆく
ひとつひとつの言葉のかたわら
何も指さない標の花


曇のそばをすぎる会話
遠く高く鳴り止まない雪
あどけない花へ降りそそぎ
小さな声で
双つの色を問いかける
















自由詩 夜の声 Copyright 木立 悟 2008-05-13 15:32:13
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