水の空席
望月 ゆき

わたしの棲む場所を流れる川に
水はない

誰かが
橋の上から捨てた言葉を
灰色のさかながついばんでいる


     *


夏の暑い日、わたしは
忘れてしまいたい過去の過ちと
使い古した武器を
生き埋めにした

すべてを忘れても
水やりだけ、忘れなかった


     *


空を歌ってはいけない
鳥が、涸れてしまう

遠い故郷の川はやさしく潤い
耳をすますと、水は
恥ずかしそうに書物に隠れる


     *


わたしの内側に水が流れていて
世界はわたしのそとに存在している

足もとに、見えない花が咲いて
触れられないまま散って、
やがてそれは明日になる


     *


待ち合わせした約束の場所は
まだ白紙のままで
名前もない
川面に浮かぶ言葉の切れ端を見つけて
忘れ物をしたように泣いた
すべてをいっぺんに思いだすために




どこまでも、水は不在だった








(ポエニーク 即興ゴルコンダ投稿)



自由詩 水の空席 Copyright 望月 ゆき 2008-05-13 10:14:04縦
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