ライオンさん(愛・雨・絵・王)
木屋 亞万

ライオンさん!
こっちでは愛が降ったよ
久しぶりにあなたの、
ライオンさんのタテガミ
見たいなあ

どんなに濡れてもライオンさんのタテガミは風にふわりとなびいていた
どうしてなのか尋ねたら愛が降ってるからだよとさらりと言った
あなたにとって雨は恵みの愛に溢れていたのかもしれない

両親も恋人も今は雨になってるんだ
わたくしの血もね太陽に乾かされれば雨に変われるんだよ
身体のほとんどは水だからねえ八割くらいかな
残りの二割は何だと思う
愛なんだな愛
血から水が抜け出して雨に混ざっていくように
わたくしに溜め込まれてる様々な愛も雨として降ってくる
愛がタテガミに染みてね興奮の余りふわりと揺れるんだ

僕らは真夜中の動物園で
係員の目を盗み語り合った
金色のタテガミが闇の中で
月明かりにぼんやりと光っていた

僕らが食べてきた獲物もきっと空に帰っていったんだ
血を大地に垂らしながらむさぼり食われた可哀相な獲物達
ライオンさんはそれを知っていて毅然とした態度で生きてるんだね
獲物達は雨になり水になり僕らの身体になり愛になり命になって
僕らのことを静かに見ているんだなあ
ライオンさんのタテガミは彼らの感謝と応援の証なんだと思う

ライオンさんはくすぐったそうに目を閉じ
照れくさそうな笑顔でまどろんでいた
ライオンさんの家族や友達はみんな
水と愛になって僕らに降り注いでいる

絶滅したらしいんだ
わたくしを残してね
どうせ家族と友人しか知らないし
絶滅してもしなくても死ぬまで顔合わせる事のない
疎遠なやつらばかりなんだろう
だけど何だろうね
この星でライオンの形してる愛と水はわたくしだけなんだ
不思議な感じだよ
ライオンってのはさ王様だったんだ
絵を見たことがあってね
百獣の王ライオンって言われていたらしい
王ってさ脆いんだなあ簡単に滅びてしまう
今は霊長がトップなんだだそうだ
君達のことだよ霊の長だ
もうわたくしは身体から愛と水が
致死量まで抜け出ていくのを見てるだけの身さ

ライオンさんは新月の一際暗い夜
静かに形而上学的な存在へと変わった
ライオンさんは愛そのものになった

ライオンさん!
こっちは愛が降ったよ
そっちはどうだい
身近にあなたを感じるようで
すごく遠くにいる気もするんだ

ライオンさん!
やはりあなたが王様だ
月にあなたが描かれてるんだもの
タテガミが月の風に揺れるのが
僕には想像できる気がするよ

僕はドラミングしながら
雲の向こう、月に吠えた
ライオンさん!
この星には愛と水を持ったライオンはもういないんだ
雨を避けるようになった霊長どもは
愛に飢えて
愛に飢えた痩せた心で
絶滅すればいいんだ

ライオンさん!
僕はあなただけは
ライオンでいて欲しかった
他の誰が愛と水になって
大地に帰ったとしても
あなたにだけは
ライオンさん!



自由詩 ライオンさん(愛・雨・絵・王) Copyright 木屋 亞万 2008-05-11 17:51:16
notebook Home
この文書は以下の文書グループに登録されています。
象徴は雨