標本
ホロウ・シカエルボク
仕方がないんだとおまえは言う
ほんとは
そう言ってほしかったんだろ
途中下車、することの恥ずかしさ
おまえが
一番叫んでいたもの
情熱を熱いものだと信じて疑わないおまえの薄っぺらさじゃ
きっといつかこうなると思っていたよ
熱が引いたらただの人かい
激しさは
さかりの孔雀の羽根のような
その場かぎりの見せかけだったのかい?
「ノーマルなんてみんな死刑だ」
そう
唾と一緒に吐き捨てたおまえが
いまじゃ
やつらとおんなじ靴で
ぎこちなく歩いてる
おまけに
誰かのためでも自身のためでも
それをまったく納得していない
夢のような時間だったんだろ
もう二度と味わえないような
若さゆえの
過ちだったんだろ?
いまじゃもう
信号無視をすることもない
車線変更だってスムーズに
強引な割り込みなんかしない
通学路では徐行して
「かっこいい車」と目をむく子供らに
にっこりと微笑んでみせる
知ってるかい
おまえ「死体」って呼ばれてるぜ、あの子らに
そうじゃないよ
暴走が美徳なんて
俺は少しも考えちゃいない
ただ
計りかねてるだけさ
あのときおまえをたぎらせていたものは
いま
どこに行っちまったんだろうって
戻ってこないような気がする
おまえはシールドを張っちまった
シールドを張って
やつらが入って来れないようにした
で
当たりそうな賭だけにコインを詰む
死なないことが第一か
迅速に円滑に
分別と行動力を
釣り合うように天秤に吊して
細々とした動きを
きちんと見極める目を持って
(だけどおまえは子供たちに死体って呼ばれてる)
それを選んだのなら俺がどうこういうことじゃない
おまえはさっさと自分を見限ったのさ
安心したかい
背伸びしない足元はもうふらつくことはない
転んで
余計な傷をおうこともない
役目をこなせば
暖かいベッドとシャワー、それに時には節度あるセックスも
俺がどうこう言うことじゃない
少し頬がふっくらしたな
美味い店でも教えてもらったのか
幸せそうに見えるよ
まったく申し分ない
(もしも俺にそう言って欲しいのなら)
髪型も決まってる
目やにもついてないし
鼻毛だって出てない
スーツもパリッとして
埃ひとつ見えない
靴は
たったいま出来上がったばかりのようだ
まったく申し分ない
エリートの見本みたいさ
だけど
だけど覚えておきな
地についた足だって
ぐらつかないとは言い切れないんだぜ