夜の行軍
六九郎

深くしわの刻まれたいかつい顔の男が夜の行軍

いないばあさんを探しに夜の行軍

他のばあさんの部屋をのぞきながら夜の行軍

ばあさんの味噌汁に入れるカボチャを探しに夜の行軍

寝ているばあさん連中を恐がらせながら夜の行軍

育て上げた息子を探しに夜の行軍

長年麦と芋を育ててきた力強い手を持て余しながら夜の行軍

鯉を釣る食パンを探しに夜の行軍

じっと寝てる場合じゃないほど大事なものが気になり夜の行軍

釣りに乗っていく相棒の自転車を探しに夜の行軍

裸足で冷たい廊下をさまよい続ける夜の行軍

死んだばあさんは作物のない畑でいない息子の名をつぶやいている夜の行軍

失ったものを取り戻しに夜の行軍



男はにっぽん人である

にっぽん人は今も行進を続けている

さあ俺も男のあとに続こう

夜の廊下をみんなで行軍

それぞれの失った何かを探しに

ぞろぞろと

夜の行軍


自由詩 夜の行軍 Copyright 六九郎 2008-05-09 18:27:39
notebook Home