すぎるうた
木立 悟





灰は盲いて仄になり
灰より熱い火のなかにいる
背から腕へ溶ける羽
夜の漕ぎ手の手首に宿る


星の奥から風が来る
目のかたちの痛みに降る
十月十日後のめまいのために
寝床がふたつ用意される


川に落ちた楽器を追って
うたうたいは帰らない
舳先に置かれた器の水に
月と曇はくりかえし咲く


   照準が 土に突っ伏して
   何を狙っているのですか
   ああ突然 百年がすぎて
   そのままのかたちに腐っております
   ひとごろしどの
   半分土になった
   将軍どの


慈悲にあふれ 心を欠いた家族のうた
何かを殺め 逃げつづけるもののうた
さまざまな色の光の輪が
川のなかへ降りつづく


   戸口には何処かで聞いた声
   だが誰なのか思い出せない
   巨大な無言が
   くちびるとくちびるのはざまに立ち
   見つめあう目に互いは居ない
   あなたの秘名も たましいまでも
   わたしは知っていたはずなのに


器で雨と光をかき出し
波紋がすべて流れてしまうと
蒼のなかで蒼を見る目の
ほんとうの色が聞こえくる


見知らぬ祭を舟はすぎる
目をとじるたびうたは変わり
水を呑むたび別の夜が来る
羽は手首をまわりつづける















自由詩 すぎるうた Copyright 木立 悟 2008-05-09 15:06:28
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