IT Apples
渡 ひろこ

林檎がふるえている
暗い海の底で
ヒリヒリする電波を発しながら
傷んだ痕をさらしている


林檎たちがふるえている
共鳴しながら
いくつもの透明な触手を
スルスルのばし
痛みをそっと愛撫する



薄皮一枚 中身はグチャグチャの
聡明な果実は
それでもナイフのような悲鳴を響かせて
美しく詠うので


恐る恐るワタシも
触手をのばしたが
微妙に向きを変えられて
上手く傷口には触れられない



赤裸々に
石榴のような裂け目を語るのに
緯度のちがう触手はけむたいらしい
シーナという林檎をなげたら
少しだけ一緒に齧ってくれた




林檎たちはときどき浮上する
羊水の中で
留まらないかのように
みずみずしい細胞に満ちた肌で
ニコチン呼吸する
お互いの水滴を嗅ぎわけながら
すり寄せあっている


ピリピリした電波の中でなければ
自由に回遊できないのと
相手の形を確かめると
またそれぞれの海へもどっていく



どっぷり生暖かい海水に浸って
触手はいよいよ長くなり
ぐるぐると世界中を巡って



やがて何重にも縛られ
オゾン呼吸する
ふるえる大きな林檎は
次第にゆっくりと
青い悲鳴をあげはじめる











自由詩 IT Apples Copyright 渡 ひろこ 2008-05-08 20:57:40
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