「・・・」を書く
草野春心
沈黙について書きたいと小説家は思う
即物的な生々しさでショットグラスが輝く夜
彼はそっとキーボードを叩く
一年前恋人に見放され
その二ヵ月後に右足を失った
暴力の影は今も彼につきまとい
おびただしい数の「・」を書かしめる
スクリーンを覆う蝿のような沈黙の大群
その中で彼は気づく
自分自身も既に失われていることに
俺は黙りたかったのだろうか?
それとも黙っているふりをしたかったのか
答えは決してその中間などではなく
魂が沈黙と静寂の谷間をこっそり跨ぐ
小説家の死体はもちろん言葉そのものだ
それはいつまでも語り続ける
「・・・」と「・・・・・・」の違いについて
何時間でも長く
沈黙も忘れて