「・・・」を書く
草野春心




  沈黙について書きたいと小説家は思う
  即物的な生々しさでショットグラスが輝く夜
  彼はそっとキーボードを叩く



  一年前恋人に見放され
  その二ヵ月後に右足を失った
  暴力の影は今も彼につきまとい
  おびただしい数の「・」を書かしめる



  スクリーンを覆う蝿のような沈黙の大群
  その中で彼は気づく
  自分自身も既に失われていることに



  俺は黙りたかったのだろうか?
  それとも黙っているふりをしたかったのか
  答えは決してその中間などではなく
  魂が沈黙と静寂の谷間をこっそり跨ぐ



  小説家の死体はもちろん言葉そのものだ
  それはいつまでも語り続ける
  「・・・」と「・・・・・・」の違いについて
  何時間でも長く
  沈黙も忘れて



自由詩 「・・・」を書く Copyright 草野春心 2008-05-08 16:09:35
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