たんぽぽのバス
jin

暇なので
バスを見ていた
空は青い絵の具の垂れるよう
たんぽぽ柄の車体が走る

砂利道に揺れて
犬と追いかけっこして
まるい太陽の下、
熱っぽくなったら停車する
そこは、つむじ風の過ぎていく、
朽ちかけたバス停

乗客は誰もいない
開けて待つドアからは
蛙の鳴き声が入ってくるだけ
運転手はため息ばかりさ
…この町にバスなんていらない


裏窓から
バスを見ていた
オレンジピールみたいに暮れた空
たんぽぽ柄の車体が走る

下り坂を滑って
トンボとにらめっこして
長く伸びる影を引き連れながら
孤独を知って停車する
そこは、徒歩で帰る人々の過ぎていく、
灯りのないバス停

ああ、もうすぐこの町に
大サーカスがやってくる
チャリネ一座がやってくる
ナイフ使いや綱渡り、
空中ブランコ見たいだろ?
失敗するのを見たいだろ?

乗客いっぱい、夢いっぱい
車内広告の溢れ出す
乗客いっぱい、夢いっぱい
窓から人体の溢れ出す

でもそれは、十年前のポスター
運転手は涙をぬぐう
…だって今ちょっと、アクセル全開にしたい気分だったから


日がな一日
バスを見ていた
どこにも出かけなかった
たんぽぽのバスが
燃えながら走り去っていく
夕焼けの中に沈むまで。


自由詩 たんぽぽのバス Copyright jin 2008-05-05 23:02:11
notebook Home 戻る