そうして大人になる
春日



英単語帳の表紙を飾る茶色い犬の目が
わたしを見ているようで
たまらない気持ちになって
そっと本を裏返す

だからと言って
何から逃げられたというわけでもなく
明日の朝わたしはいつも通り傘を持たずに家を出て
そういうときに限って雨が降るんだ
洪水
予言できるよ

春なのに

(傘は忘れても
単語帳は忘れちゃいけない)





昔付き合ったひとに
『絶対』なんて無いんだよと言われて
けれどもわたしは
反抗的に『絶対』を繰り返していた

ずっと訊ねたかった
わたしがここに存在することが
『絶対』じゃないとしたら
わたしは何処にいるんだろう

けれども
絶対すきだったひと





死にたいって言葉を何度も発してきて
本当に死にたかったのは一体何度あるのかと
今さらになって考える

言葉にはおもみがあって
心の中で呟いたそのキーワードは
わたしにとっては全部本当だったけれど
生きていることを実感したくて
やめられなかったリストカットでは
血が出るだけでみたされたのは
なぜなのか

死にたい気持ちが分かって
わたしはそれでも言うよ
『死にたい』とか『欝だ』とか
人前で笑いながら言うの
全然かっこよくない

でもその人たち以上に
わたしはもっとかっこわるい





十七歳は
ある場面では子供と言われ
都合が悪いときだけ大人と言われ
はやく卒業してしまいたいのに
きらきらしてる

まばたきもしないで
今日と明日とそれから昨日を
一生懸命につなぎとめている

だれかのやさしい言葉に
そうやって触れたなら
指先から
またすこしずつ
あふれだすから








自由詩 そうして大人になる Copyright 春日 2008-05-05 19:50:17
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