そうして大人になる
春日
*
英単語帳の表紙を飾る茶色い犬の目が
わたしを見ているようで
たまらない気持ちになって
そっと本を裏返す
だからと言って
何から逃げられたというわけでもなく
明日の朝わたしはいつも通り傘を持たずに家を出て
そういうときに限って雨が降るんだ
洪水
予言できるよ
春なのに
(傘は忘れても
単語帳は忘れちゃいけない)
*
昔付き合ったひとに
『絶対』なんて無いんだよと言われて
けれどもわたしは
反抗的に『絶対』を繰り返していた
ずっと訊ねたかった
わたしがここに存在することが
『絶対』じゃないとしたら
わたしは何処にいるんだろう
けれども
絶対すきだったひと
*
死にたいって言葉を何度も発してきて
本当に死にたかったのは一体何度あるのかと
今さらになって考える
言葉にはおもみがあって
心の中で呟いたそのキーワードは
わたしにとっては全部本当だったけれど
生きていることを実感したくて
やめられなかったリストカットでは
血が出るだけでみたされたのは
なぜなのか
死にたい気持ちが分かって
わたしはそれでも言うよ
『死にたい』とか『欝だ』とか
人前で笑いながら言うの
全然かっこよくない
でもその人たち以上に
わたしはもっとかっこわるい
*
十七歳は
ある場面では子供と言われ
都合が悪いときだけ大人と言われ
はやく卒業してしまいたいのに
きらきらしてる
まばたきもしないで
今日と明日とそれから昨日を
一生懸命につなぎとめている
だれかのやさしい言葉に
そうやって触れたなら
指先から
またすこしずつ
あふれだすから