ひぐらし
山中 烏流
羽の音が、する
飛び立った男の子と
手を引かれながら
つたなく飛ぶ
女の子のすがた
透けるように薄い
ぺらぺらの羽は
あまりにも、心許ないから
女の子の羽には
小さく切ったおりがみが
大事そうに
貼付けられていた
*
観覧車の外は
都会のまんなか辺りを
延々と
写しつづける
窓際で
足をばたつかせながら
男の子は
もう帰ろう、という
その横で女の子は
肘をつきながら
帰るってどこに、という
*
配電板の上で
絡める羽のむなしさ
いつのまに
大人になるという
足音
*
夕暮れに漂う
男の子は
砂場の照り返しを
何度も数えて
女の子は
鉄棒にまたがる子供の
幼いひかりを
なぞっている
深呼吸の速さで
ふたりが
瞬きを始めたとき
世界は一度
おわる
の、だろうか
*
琥珀いろの穴が
小さくあいた空で
男の子の羽は
散り散りになって
弾けてしまった
残された女の子は
それをただ、見ている
おりがみの羽を
そっと撫でながら
細く細くなる目で
ただ、見ている
*
あ。