花という花をあなたにあげよう
umineko
近くの。通勤の途中にラブホテルが3軒、軒を並べてるんだけど。
まわりがふつうの住宅街なのでおかしな感じだけど、もとはといえばこのあたり、細い路地の入り組んだ下町だったからね。もともとからあるんだ。街が、後からついてきた。
そのホテルの入り口、もちろん車の入り口なんだけど、車道から引き込む形でアスファルトがあって、建物との間の小さなスペースが花壇になってて。時々、おばあちゃんが手入れしてる。
今日通りがかったら、いつものおばあちゃんが手入れしてたので、思い切って声をかけてみた。
―きれいにしてらっしゃいますねー
「いやもう、ただただ好きなんですよ、心配になってね、枯れちゃあおらんかって、朝晩どおしても見に来るんですよ」
―たいへんなんじゃないですか?
「よそさまはそうゆうてんですけどね、なんかどんどん花が咲くんですよねえ。枯れた、思うたら次の年にはまた芽吹いたりして、おじいさんが、やめえやめえゆうんですけど、やめれんのですわねえ」
―いやあ、こんなに手入れされてたらつい来たくなりますね。まあ来ませんけど(笑)。
「なかなかね、どうぞおいでんさい、っていう商売じゃないですしねえ(笑)。」
みんな。忙しかったりする世界だ。自分のこと。欲望について。欲望の、処理について。
だけど、ラブホテルの前に咲く花を、見逃すわけにはいかないんだよ。
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どこかの雑誌に、ブログなんて時間の無駄、っていう処世術が載ってた。気持ちはわかるよ。痛いほどにね。短時間で、最短距離で、追いつこう。追い抜こう。詩を書くことなんて、無駄中のムダ、なんだろうなあ。そんな人たちから見ると。
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だけどさ。
自分は、たぶん間違えない。過ちは、たぶん何度も犯すだろうけど、間違えない。
詩を、書いている限り。
詩を書かなくなったら、たぶん私はその辺の石ころだから、蹴飛ばしちゃったりしていいですよ。
あるいは。静かな川面に向かって投げたら。2、3度すべって、いつもより遠くまで届くかもしれないな。
夕暮れの川面をすべる、かつて私だった石ころは。
いくつかの波紋を残しながら。
ロマンチックに消えていく。