人身事故開脚
狩心

人身事故開脚
あなたなんでバレエ
電車の中で眠って
あなたなんでドア
辞めても辞めても連結する車両
ふと目を覚ますと汗だくだくで
額を拭う
何かが剥がれる
あなたなんで肉体
手元でピコピコゲームする
女が全員脱ぎ始める
女性専用車両
羽が生えた電車
踏切に女性の死体
彼女はプリマドンナ
iPodのボリュームを上げる少年
腕がもぎ取れる
それに気付かないままiPodのボリュームをさらに上げようとする
なぜだか動かない
中年男に頭突きされる
新聞が顔面に張り付く
午後23:45 高崎線の踏切で人身事故
あなたなんで男?
プリマドンナを持ち上げる筋肉質の男
目はまだ覚ましていない
目を閉じたまま汗だくだくで
手元に持ってたゲームピコピコ落とす
ぼくたちはバレエ?
腕がもぎ取れる
隣の人の腕がぼくの爪先の上に
こんにちは
今日は普通の日だったのに
この電車が遺伝子組み換え食品だって事が発覚したらしい
新聞が背中に張り付く
バレエが過去になる
腕を踏切に置き忘れたまま
iPodの中で遺伝子が組み変わる
細波浜辺
水面に浮かぶ女性専用車両
線路の無い場所で
波の速度でサヨナラ
あなたが飛んだとき
ぼくは中年男に頭突きされてて
美しい姿を見る事が出来なかった
こんにちは
もうすぐいつもの駅です
一緒にご飯を食べましょう
汗だくだくで
あなたなんで肉体持ってる
生殖器が礼儀正しく地面にくっ付くほど柔軟な肉体が悲しい
なんでそこにドア
辞めても辞めても連結する車両
いつも普通の日なのに
なんで今日は命が生まれたんだろう
一人死んだら二人増えた
気持ち悪い電車はガの幼虫
ドアが開くとゾロゾロ出ていく
携帯電話を落として友達を失くす
自分の体を携帯し忘れて改札でピンポーンって鳴る
駅員と喧嘩したら仲良くなって
そのまま結婚した
プロポーズの姿勢は 私 股間 地面 ちゃんとくっ付いてるでしょ
若い頃バレエやってたんだぁぁ プリマドンナ
そこは踏切の上じゃないから 君は人身事故にならない
今日も血は 平然と血管の中をサラサラと流れ
皮膚の内側から飛び出す事はない
閉店しているケーキ屋の硝子をぶっ壊して
ケーキボックスと保冷剤
君を詰め込んでぼくは男性専用車両を探す
ぼくはなんで人間
君の手元でピコピコしてるゲームは何
君に頭突きして
ぼくも早く中年男になりたい
背中に張り付いた新聞が
もう重たくて仕方が無い
多くの人に迷惑をかけて 新しいものを見つける
ドア
中年男が踏切の上でプリマドンナ
臭い 汚い 気持ち悪い
柔軟な体で 私 股間 地面 ちゃんとくっ付く
置き忘れていた腕が 生殖器に連結する
もう人間じゃない
ショートケーキになりたい
裸のまま冷蔵庫に身を潜めて
子供が 「ぱぱぁぁ なにしてんのぉ〜」 と 叩き起こしてくる
「さわるな ガの幼虫 パパは忙しいんだ」
「木ごっこ しようよ 木ごっこ」
腕にガの幼虫を二匹ぶら下げて 汗だくだくで踏ん張る
プリマドンナを持ち上げる筋肉質の男になりたかった
最愛の人を幸せに出来なかった
笑い声が聞こえる
それは批判に満ちている
それは許しに満ちている
臭い 汚い 気持ち悪い 中年男 今日も頑張る事件
人身事故は起きず
美しい姿も無いが
柔軟な体で 私 股間 地面 くっ付く
おれはなんで肉体持ってる
ドア
体中にたくさんのドア
子供達がそこで遊ぶ
白い砂浜
何度でも 砂の城 作れる
波にさらわれれば消える 刹那の城
海は無言で横たわっている
だから無限の問い掛け
「ちょっと行ってくる」
ダイバースーツに酸素ボンベ
ペンダントには君の写真を
光の届かない深海で
情熱的な熱帯魚たちが綺麗だよ
酸素ボンベが0になっても
ぼくは君の肺を借りて
もう少し生きてみる
意識を失って 細波浜辺
人工呼吸を施されて目を覚ます
「ああ よかったぁ 意識が戻って あなたの名前は?」
今日は 普通の日だったのに 命が 生まれたんだ


自由詩 人身事故開脚 Copyright 狩心 2008-05-04 11:39:23
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