零℃
春日
嘘をつくのがじょうずじゃなくて
放り出したさよならは
たやすくきみに捕らえられた
浴槽にうかぶ泡が
細切れに入り込む光をさけるように
生まれては消えるのを何度も見た
それをつかまえるのは難しいことで
だからじぶんよりも小さな存在を
受け止めることも出来ないまま
しずかにしんでゆくのは
あたりまえのことだと思った
髪からしたたる水滴と
ふれることも許されない指先、
てれくさそうな頬のいろは
下がってゆく温度のせいだと知っている
シャワーの音がとだえたら
しんたいを包むための水温は
意味を失くし始める
もう少しよりもっと短い、
瞬間と呼ばれる秒数の何倍かの長さで
ゆっくり機能は失われるだろう
グッドバイ、スラッシュスラッシュ、ハイフン
近づくことが明日を静かに遠ざけてゆくなら
グッドバイ、スラッシュスラッシュ、ピリオド.
どうかもう一度やりなおさせてください
わたしの息つぎが下手だと笑ってお手本を見せてあげると言った、
ぽちゃりと潜ったなら二度とでてこないんだろう、
からだだけを残して、
きみが水の中でそっとつぶやいたさよならを、
きかなかったことにしたかった、