零℃
春日




嘘をつくのがじょうずじゃなくて
放り出したさよならは
たやすくきみに捕らえられた

浴槽にうかぶ泡が
細切れに入り込む光をさけるように
生まれては消えるのを何度も見た
それをつかまえるのは難しいことで
だからじぶんよりも小さな存在を
受け止めることも出来ないまま
しずかにしんでゆくのは
あたりまえのことだと思った

髪からしたたる水滴と
ふれることも許されない指先、
てれくさそうな頬のいろは
下がってゆく温度のせいだと知っている

シャワーの音がとだえたら
しんたいを包むための水温は
意味を失くし始める

もう少しよりもっと短い、
瞬間と呼ばれる秒数の何倍かの長さで
ゆっくり機能は失われるだろう

グッドバイ、スラッシュスラッシュ、ハイフン
近づくことが明日を静かに遠ざけてゆくなら

グッドバイ、スラッシュスラッシュ、ピリオド.
どうかもう一度やりなおさせてください



わたしの息つぎが下手だと笑ってお手本を見せてあげると言った、
ぽちゃりと潜ったなら二度とでてこないんだろう、
からだだけを残して、


きみが水の中でそっとつぶやいたさよならを、
きかなかったことにしたかった、



自由詩 零℃ Copyright 春日 2008-05-02 20:46:54
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