詩人の肖像
服部 剛
人々の行き交う夕暮れの通りに
古びた本が
不思議と誰にも蹴飛ばされず
墓石のように立っていた
蹴飛ばされないのではなく
本のからだが透けているのだ
聴いている
時の流れの川底に響く
幾千もの靴音の行方を
みつめている
路面に落ちた一枚の言ノ葉が舞いあがり
群集の頭上に広がる夕空へ吸いこまれるのを
夕暮れの刻になるといつも
輪郭の透けた姿で現れ
いつまでも消えずに立っている
古びた一冊の本
藍色の表紙に
金の糸で縫われた
詩人の肖像
行き交う人々の足の間から
魚の目で
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