そして、クリームの中で血が滲む
プテラノドン
泡立てられたクリームはベッドで寝かしつけられた子供の夢そのもの
冷ややかな時の流れ身を任す私たちに、
つかの間にしては充分過ぎるほどの温もりを与えてくれるだろう。
そうして、客の大半は棺桶まで眠りこけてしまう。
しかし私は眠らない。私は床屋の店主であり、
常日頃からいい感じに酔っぱらっているのだ。
そればかりか、一切を削ぎ落とす詩人の如く、
少しずつ、そして着実にひげを剃ってやらなくちゃならない。
鼻を削いでしまおうかという誘惑にも屈せずに。
詩の神である客のために。でも、デブはよくないな。
的のないダーツをするように、薄ら馬鹿の散文詩のように、
どてっ腹めがけてーこの場合ペンでもあるー剃刀を
投げつたくって仕方ないもの。或いは、月光の地響きに揺れる鏡に。
そうして身構える自分自身の姿を見て私は気付くのだ。
物書きは、ナイフ投げの曲芸師みたいだということ。
ーそれだけじゃなく、私と客の間にかかる
紙一重の布切れ、蒸したタオルに浮かび上がった
数十行からなる期限つきの主従関係の全貌と、
それを簡単に知らしめる黒い王冠までもが。
私は原始人のサーカス団長であり、真っ黒なシルクハットのかわりに、黒曜石の王冠を頭に載せる。
私は客の注文を聞くと同時に、忠告する。
お前は、一メートルばかし髭をのばすべきだと。
そしてそれがかなったならば、お化け屋敷の
ギロチン椅子に腰掛けて、来るべき時を、
誰かに力任せに髭をグイっと引っ張られる
その時を待つのだと。合図を受けたなら
お前の権利を守るべく全身全霊で眠りから覚め、相手を睨み付け、叫び声をあげて、修復不可能な
数世紀にも及ぶ呪いをかけてやるのだと。
こんな所で客として眠っているくらいなら。
やがてクリームとともに流され、消え去るくらいなら。