退廃日報
餅月兎

太陽がブスブスと燃え尽きて
街がポツポツと独白を始める
厚化粧した流行が
人工の闇を闊歩する
巻き起こる風にそよぐビル群
氷だらけのジュース
灯りのない部屋に切り取られた小さな窓
ひとつの感染経路
吸い込まれるように叩く黒鍵
繋がろうとする試み
アルビノの兎のような眼
抜け落ちて意味を変えたネオンの文字
ショーウインドーの中で最高のポーズをとるマネキンとスパゲッティ
彼らから滴る
ファッション
四方八方を飛び交う
出発点の定かでない無数の矢印が
ぐにゃりと収斂し
精密な虚弱児の空疎な中心部を貫いて拡散してゆく
メーデー、メーデー
流行が
大挙して練り歩く
m'aider,m'aider,m'aider

バチバチと落ちる
蒼白い灯に誘われた虫達を他所に
街がブツブツと独白を続ける
死に化粧した流行が
便所の壁に花を咲かせる
水に流され続ける声なき声
コップの底の溶けた氷
灯りのない部屋で聞く鶏達の挨拶
マクロファージの蠢き
弦が弾けてゆき
次第に無口になる鍵盤
引き摺られた擦過傷
兎の尻尾は短い
並び方を忘れ意味をなくした文字の骸
ショーウインドーの中は喫煙室になっており
お人好しのスパゲッティを
頭の小さいマネキンが煙に巻いている
燻されたため
くしゃみひとつ
ファンクション
トマトソースに染まる硝子
ガラガラと音を立て分散した人形
首だけ通りを向いて
天使の微笑み
ぽとり口からシガレット
メーデー、メーデー
醒めない酔い
褪めた流行
覚めない眠り
冷めた事実
蛍光灯の唸り声
m'aider,m'aider,m'aider
新しい太陽は
未だ引火点に達しない
           2008.5.1


自由詩 退廃日報 Copyright 餅月兎 2008-05-01 04:51:11
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