心の地下室で独りが笑う
うおくきん

地下室で独りが笑い、地下室で一人が怒り、地下室で独りが泣く。
同時刻、地上の街では大勢が笑い、大勢が怒り、大勢が泣く。
そして、独りは、地上の街を悲しむ。
笑いと怒りと泣きの種類が独りとは違うからだ。
独りの心は壊れない、独りだからだ。
ほかの人間との接触がなければ安心して独りは眠りに落ちることができた。
しかし、ある時から眠ることができなくなった。自問自答せよ。わからないはずがない。
大勢に溶けこむ思考停止の弱さと社交辞令の群れを思い出してしまった独りの悲しみと殺意が独りを眠りに落ちることを許さないからだ。大勢の中で自我を保ったまま生きる困難さを独りは知っている。一度挫折したからだ。


一度目の自我崩壊を思い起こす・・・薬物オーバードーズで3日間昏睡の後、管だらけの箱入り娘。
閉鎖病棟??、モルグ??、苦界??、六道地獄??、奈落??、ゲヘナ??、冥界??、ヴァルハラ??、パラグラフ14??、いしのなか??・・・いったいココはドコなんだ??
仮に心の地下室とでも命名しておこう。
ソレ以来、独りは地下室に逃げて、汚物のように無様に屍体のまま思考停止で生きている。ソコもまた楽だった。この地下室は独りの弱さの象徴なのだ。
地上も地下室も同じようなものだ。より楽なほうに逃げただけだ。


長い年月が経ち・・・独りは独り切りで地上の街に這上がる決意をした。
気まぐれ??、孤独に耐えられなかった??、殺意??、理由はわからない・・・
そして、暗闇から這い出て地上に到着。


独りは吐き気と殺意と自己嫌悪と戦いながらも地上の街に溶け込む努力をした・・・
幸いなことに独りは味方と居場所を独りの努力と数少ない味方の協力のおかげで作ることができていた。自我の再構築にも成功した。
味方たちと甘ったるく遊び、笑えた日々。まるで生き返ったようだ。コレが生きるってことなのか??、生きる喜びなのか??




しかし、独りはまだまだ人間をわかっていなかった。敵と味方の区別のつけかたが解らない独りは徹底的に裏切りまみれの地獄を味わい、二度目の自我崩壊に至った。
味方を敵と思い込んだ独りは居場所を粉みじんに破壊した。
破壊は終り、味方も消え去った。独りはまたもや屍体になった。思考停止の生ける屍体・・・「こんな無様な姿になってまで地上にいたくない、こだわる理由もない、また地下室に潜ろう」というところまで追い込まれた。


・・・しかし、そんなことは味方が許さなかった。独りにはわずかに本物の味方がいたわけだ、味方のふるいわけを行ったわけだ。
思考停止は続かない、許されない、独りは自我を再構築し始めた。盲目の少女のように手探りで。味方の存在を信じて。


しかし、なぜか満足できない。
貪欲な独りは、味方を求める一方、自分を徹底的に独り切りにしたいと言う矛盾した欲望を持っていた。
ダメだ。繰り返しだ。もう繰り返されてはならない。
独りは心の地下室に逃げ帰る前に、屍体のままがむしゃらに思考を保って生きる決意をした。
たとえ、味方がいても独りは独り切りのままだ。そんな当たり前のことを独りはようやく理解できた。
諦め、逆にふっきれた独りは独りのことだけを思考再開した。
そして、独りは今でも屍体のまま独り切りであがきもがきなげき生き続けている・・・
ああ、なんて素晴らしいことなんだ!!
ほかの人間を、特に味方を・・・あの孤独を愛し愛された屍体だった独りが自ら進んで求められるようになれるなんて!!
さらには独りが自分が地上に存在することを自分自身で許せるようになるなんて!!


自由詩 心の地下室で独りが笑う Copyright うおくきん 2008-05-01 01:20:36
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