ボックセトラ
Ohatu


 彼はひとりで戦い
 あたしは彼を見殺しにした
 それで話が終わって
 あたしたちは目を覚ますの

 
 そこは、人造の公園の一番すみっこ
 それなのに、楽園だった

 公園には名前が無く
 あたしにも名前が無く
 でも、彼には名前があった

 公園は真っ白と透明をくり返し
 それは、つまりあたしで
 そのまま彼、であって欲しかったのに

 彼とあたしは、ひとりでにくり返し
 車は何台も追い越していったのに
 いつまで経っても
 一番近いまま

 たくさんの人が生まれては死ぬのに
 いつまで経っても
 始まらないしくみのシーソーで
 くるん、くるん、と流れていく
 
 哲学は無価値なのに、あたしたちは不幸になる
 誰も働かずに
 どんどん饒舌になる
 国のために、いつだって死ねるんだって、さ
 
 毎日のように届くフリーメールじゃ
 トイレのあとのお尻が拭けない、かゆいよ
 掻いても、掻いても、血まみれになっても
 それは答えじゃないと、あたしは煩い

 彼はひとりで、ひとりでに戦ったの

 あたしは、見捨てられたのだけれど
 それは当然だった
 戦争より、ほんとにおそろしいものに
 彼はひとりで戦いを挑み
 あたしは、答えじゃないと騒ぎ
 彼は追い詰められ
 あたしは、孤独だった


 彼はひとりで戦い
 あたしは彼を見殺しにした
 それで話が終わって
 あたしたちは目を覚ますの
 
 彼は自動的に戦い
 あたしは悩みながらドアを閉めた
 それで話が終わって
 オリンピックも終わっていた


 でも、金曜日だったから
 テレビを見ないで、いい子にして
 早く寝れば
 それでいいと思っていた

 医者は、1億円払えば彼を生き返らせてあげると言った
 あたしはお金が無いというと
 医者は、じゃあねバイバイと言った

 牧師さんが、お金なんか要らない
 彼を生き返らせてあげようというと
 医者は、特許の侵害だと言った

 あたしは、だから
 お医者さんにも牧師さんにも
 じゃあねバイバイと言った


 楽園には、静かに風が吹いて
 見えない大きな葉が揺れていた
 彼のたばこの煙で
 真っ白と透明をくり返した

 楽園には、子供と大人
 笑っているように見えた
 政治家でも運動家でもないのに
 確かに、みんな笑っていた

 あたしは、彼が好きだったから
 彼の腕を舐めた

 汗のにおいがして

 彼が消えた




自由詩 ボックセトラ Copyright Ohatu 2008-04-30 15:25:28
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