下り階段
つばくらめ
見ないで
僕を見ないで
なんでみんな僕ばかり見るの
両手で全身
ひとつひとつ触れてみる
でも足は止めない
余計に目立つから
子どもが隣を駆け抜ける
子どもはかわいい
僕に評価をつけないから
昼下がりの公園
都営住宅
並木道
僕
何も無い僕
――取り消したい過去
積み重なる過去
「未来」の中に潜んでいる
これから降り積もる見込みの過去
気の遠くなるような「過去」
地下鉄の駅
階段
小さいころから
人より早く駆け上がることを求められた
人を見下ろして嘲笑うことを求められた
――全身を弛緩して
ここから転げ落ちてみたいなぁ
声に出ているのに気づいたのは
ぜんぶ言い終わる直前だった
女子大生が僕を見て
足早に逃げていく
自分の口の臭いがわかる
胸から喉に
藻のような物体が広がって
酸味と苦味
顔面に血液が溜まる
じっとうつむいて
自分のスニーカーの
誰かに踏まれた跡を見つめて
もう死ぬ価値もないな
ひとり階段を下りていく