下り階段
つばくらめ

見ないで
僕を見ないで
なんでみんな僕ばかり見るの
両手で全身
ひとつひとつ触れてみる
でも足は止めない
余計に目立つから


子どもが隣を駆け抜ける
子どもはかわいい
僕に評価をつけないから
昼下がりの公園
都営住宅
並木道

何も無い僕


――取り消したい過去
  積み重なる過去
  「未来」の中に潜んでいる
  これから降り積もる見込みの過去
  気の遠くなるような「過去」


地下鉄の駅
階段
小さいころから
人より早く駆け上がることを求められた
人を見下ろして嘲笑うことを求められた


――全身を弛緩して
  ここから転げ落ちてみたいなぁ


声に出ているのに気づいたのは
ぜんぶ言い終わる直前だった
女子大生が僕を見て
足早に逃げていく
自分の口の臭いがわかる
胸から喉に
藻のような物体が広がって
酸味と苦味
顔面に血液が溜まる
じっとうつむいて
自分のスニーカーの
誰かに踏まれた跡を見つめて


もう死ぬ価値もないな
ひとり階段を下りていく


自由詩 下り階段 Copyright つばくらめ 2008-04-29 14:23:54
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