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原 實


なにも書くことは ないだろ?
そのノートに
立て膝なんかついて つらいんじゃない
そのガタイじゃ いくら 鍛えてるからって
膝は一度ヤッチャッタら 一生のオツキアイだぜ
まあ 立ちなって
立って 大股開いて どうどうと固持すれば いい
あんたは偉いんだ
勉強もしてきてる
努力もしたんだろ?
なあ そうだろ?
けっして 裕福な家じゃなかった
それなのに あんたは勝負してきたんだ
理不尽な扉の前で何時間でも じっと 立っていられる
男なんだ
なあ そうだろ?
そして ここに辿り着いた 
バッチをつけてね
レジメンタル・タイでさ
ネイビーのスーツはブルックス・ブラザース
オフホワイトのシャツは ボタンダウンで
靴は エドワード・グリーン?
ちがうか?
ドリームじゃないんだ 現実なんだ
その証拠に あんたは熱心に真摯に
たじろぐこともなく 検証している
現場をね
ビニールに入れるべき物は そう多くはない
手間はとらせないよ
顔は吹っ飛んだけど 手も足もある
ポケットを探れば 結び目は面白いようにほぐれるぜ

なにも書くことは ないだろ?
そのノートに
そう見つめられると 立つ瀬がない
あんた
水って
ずっと にがいもんだと思い続けてきたんじゃないか?
水は 無味無臭だって?
ありゃ 嘘だよ
自分の味がするんだ
自分を じっくり味わいたいなら 水を含むに限るね
口に放り込んで まわすことだ
そのうち 自分の匂いだって 脳天まで神経が運んでくれる
自分だよ ジブン
水がおいしいだなんて
おいしい水だなんて 信じられないよ
あんたが 今 コップを手袋をした左手で
(あんたは サウスポーなんだね)
(そういや penも 左手にあった)
(それって クロスだろ)
(スイス製の)
(よく書けるかい?)
(サラサラって 滑るようにさ)
(こくめいに)
(状況を)
(さ)
で コップね
あんたが ビニール袋に入れようとしている
プラスチックの青いコップ
それで 放りこんだんだ
最期に 水を
自分だった
どうしようもなくね
ジブンだった
以外だったよ
甘かったんだ
わかるだろ?
なあ あんたなら
わかるだろ?

いろんな
意味で
って ことさ












自由詩 P.1/26 Copyright 原 實 2008-04-28 21:30:33
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