「夢の中の市場」
ベンジャミン
ピストルを背中に押し付けられて
細い路地へ連れ込まれる
そんな夢を見た
銃弾が放たれた瞬間に
ちょうど目が覚めるとは限らない
痛みのない苦痛を味わうこともある
それが夢だ
※
日常とかけはなれたところにも現実はあって
たとえば冷蔵庫の中の野菜たちも
いろんな流通経路でここにたどりついたわけだ
買われて売られて
売られて買われて
そして
最後は消費される
さっき見た夢も
僕に消費されてしまった
嘘みたいにあとかたもない
そんな嘘みたいなことがたくさん集まって
日常が積み上げられてゆく
ピーマンみたいな出来事や
かぼちゃみたいな出来事や
ほうれん草みたいな出来事も
きっと本当にあるんだよ
※
市場では
にぎやかな掛け声が飛び交っている
その中には
さくらんぼみたいに寄り添うような
幸せもあるのだろう
ときおりそんな
夢を見ることもある
そんな束の間でさえ
気がつけば
瞬く間に消費されてゆく
でもいいさ
どうせ僕ら自身も
僕ら自身の生き方の中で
そうやって消費されてゆくのだから