俺とおまえの間には、月しかなかった
水町綜助

人差し指と親指で輪っかをつくって
なにに見える?
かね?
おっけー?
そうだね
そんなもんにも見える
そいつを俺は
親指の角度をすこしずつ手のひらへ
ずらしていって
満月から
半月へつづき
三日月から
爪みたいな細さの月を見たら
次の夜は新月だよ
よく見えない夜だ
それでさ
俺はそんな暗い
暗い夜に
声だとかを知って
なんも見えないっていいな
その手は
もう親指は
輪っかじゃなくて
手のひらだから
触ってみたよ
発音をね
音の振動だよ おまえの
それだけだよ
鼓膜だった
ひりひりした

手のひらってなんだろうね
おまえは何に使ってる?
俺はメシ喰うときとか
目えこするときとか
じょしをさわるときとか
チャリンコのブレーキ握るときとか
鼻かむときとか
蛇口ひねるときとか
服のほこりをぱんぱんって
はたくときとか

まあそんな感じだ
そんくらいしか今使い道浮かばないけど

まあおまえはきっと
誰かと手えつなぐこととか
言うんだろうな

そんな感覚
最近ないな

いいよきっと
おまえは手を開いて
手を握れ
それは子供のような愛し方だ
居なくなると死んでしまうとか
それは純粋な気持ちだ

いなくなると
生きて行かれないから
いつも近くにいてほしいと
それはとても嬉しいことだよ
そんなに欲しがってるなんて
だってそれは
とてもかわいいことだ
おかあさんを好きなこどもだ

涙が出るだろう
飼い主をだいすきないぬ

ほしがることで
与えて
与えて
ほしがる
それが愛情じゃないだとか
言うな

そんな期待してないよ

俺たちはほんとうに
一瞬点いてはすぐに
フィラメントの切れる
昔つくられた灯りで
いつまでも
一瞬で
まばたきに
綴じ込めるのは
「い…」と言い終わる前に消える
くだらない
うつくしい
毎日

手を繋ぎな
だれかひとりか
何人かと
だから輪っかをつくるな
さしのべるかたちだ

俺は
おかねとか
おっけーとか
けっこうすきだから
輪っかでいいよ
まあだからそれは月でもいいよ
べつに
指を入れてみれば何もない新月だけど
夜の空にすかして
満月をはめ込んで
それで月でいいし
指を狭めていって
また消えていったとしても
それはやっぱり
月でしかなかったし
月しかなかったし



自由詩 俺とおまえの間には、月しかなかった Copyright 水町綜助 2008-04-25 19:04:07
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