ひとつ ひらく
木立 悟
水銀の光の一粒が
横へ横へと動いている
ゆうるりと回転し
他の光をかき分けている
てのひらを巡る
遠いみちのり
つもるうつろ
熱の轍
まるめられた透明が
風のなかをころがりゆく
あたたかくやわらかな
盲目の歯車
水や声のすぎたあと
熱をうずめる熱の指笛
くさくちびるはなひかりみみ
触れるたびに変わりつづけて
水紋がひとつ
川辺の炎を映している
いつか誰かに言われたかった言葉が
誰にも言われぬまま芽吹いている
重なりを解き 重なりを解き
しずくは洞に響いている
羽化の標のしめす先
散るものすべてをふちどるこがね
小さな黄緑のふくらみが
誰にも到かぬ言葉にあふれ
笑みの手から手へとわたされ
小さな黄緑のふくらみに揺れ
指のかたちに震える声を
幾度も口に含んでは
羽は燃える紙の原
骨の原を越えてゆく
銀の火に沈む水紋を
唱の波がすぎてゆく
くさくちびるはなひかりみみ
とどかぬことのはさきひらけ