日記
つばくらめ
当然のように
空は紫に染まっていく
バスターミナル パチンコ屋の照明
若者たちの笑い声
駅は通り過ぎたけれど
もう少し歩くことにする
旅行サークルが 新入生歓迎会を開いている
絶え間なく往来する
車道の脇の舗道
寝惚けたような街頭の下
ヘッドフォンの中のアルバムが終わるまで
そう思っていると
ラーメン屋の行列から
ベースを持った男が
面倒臭そうにこちらを見る
どうもすみません
トムヨークが鼻声で歌っている
足元に
S字に曲がったミミズがいた
黒のコンバースで踏み潰すと
僕みたいな色の体液が溢れた
目の前には
二人分の女子高生の背中
紺のスカートと 白い太ももを震わせ
教員の悪口を嬉しそうに話す
あの太ももも 数年もすれば
どこかの男の 唾液と精液に塗れる
街頭の灯りが減ってきて
見慣れない名前の
大きいスーパーの前に来たところで
最後のパーカッションが
チィン と鳴った
その音が鳴ったから
手近にあった信号で
舗道の反対側に渡る
また1曲目にアルバムを戻して
真っ黒になったコンクリートの上に
ザリッ ザリッ
さっきの体液を
誰にも見えないように擦り付ける
ザリッ ザリッ
右足を前に出すのと同時に
ザリッ ザリッ
別に 汚いとも思わないのだけど
ザリッ ザリッ ザリッ ザリッ ザリッ ザリッ ザリッ
真っ黒いコンクリートに
誰にも見えないように擦り付ける
駅の灯りが近づいてきて
きょうも とくに なにも なかった。