指折り
松本 卓也
吸い込む煙に咽こんで
突き抜ける頭痛に把握する現在
何より無く何故も無く
成すべきと定めた納期を
遣り繰りするだけに生きている
山陽道に横たわるモグラ線を
時速三百キロで駆け抜ける退屈な夜
会社に入って何年を経たかを指折り数えてみた
そういえば会社に入る前
自分の食い扶持を稼げる様になった上で
やりたい事を始めたいとか言ってたっけ
今は明日や明後日に死なないように
来月の給料を少しでも多く貰えるよう
汗水を垂らすばかりでしかなく
乳臭いガキの頃見ていた夢
青臭い学生の頃目指していた道
会社に入りたてに思い浮かべた暮らし
何もかも一つをとっても叶っていやしない
何年を経たかを数える指が
何年残っているかを数える指になるまで
どれだけの現実が過ぎていくのだろう
希望や理想だけを謡う詩に
ただ眉を顰めるだけになってしまったのは
かつて自分が詠った軌跡を振り返るのを
何となく怖がっているに過ぎないというのに