漂着/083/500文字の本棚
ピッピ

二人で夏の暮れに涼みに行った川辺は、
誰の手にも触れられなかった伸びっぱなしの草に
見たこともない虫が群れて、
それでも二人は楽しかった。まだ夏日の終わらない
暗い世界。傷をつくるのも怖くなかった。あ、
蛍。と言って川面に浮かぶ光を指差せば、
それはどこからか流れてきた携帯だった。
ところで、その携帯は蛍だった。誰かを愛するたびに
羽根が震え、こうこうと光り輝くのであった。
そして甘い水を吸い、空高くへ飛んでいき、
もう私たちの手元へは戻ってこないのだった。(442文字)


自由詩 漂着/083/500文字の本棚 Copyright ピッピ 2008-04-22 20:02:37
notebook Home 戻る