循環
狩心
それがどうした
どうもしねぇ
どうもしねぇけども
気になった
それは何だ
それが何か分かっていたら立ち止まらなかった
通り過ぎた
頭が理解して処理した
白と黒の世界で納得した
灰の中に落ちる死の感動
誰だか知らない奴が
俺の知らない何処かで死んだ
それがどうした
どうもしねぇ
どうもしねぇけども
何か気になる
頭で理解する前に肌が毛羽立った
何かが通り過ぎた
肺に穴が開いている
呼吸すると音が鳴る
ひゅーほーひゅーほー
バケツリレーの水が俺に手渡され
転ばないように注意して
うるせぇ
俺の好きなようにさせろと
頭から被って
少量を呑み込んだ
体内に取り込まれた水たちが問い掛けてくる
なんで僕たちは君の肌を流れる外の水たちと分け隔てられてしまった
なんで僕たちは君の一部として生きていかなければならない
行為の先に恐怖
葛藤が溺れ
溺死するのは誰か
おまえの知らない熱心な信者
妻も子も失った哀れな農夫
毎年巡る作物の生
声
あんなに美しかったのに
歓喜の喜びに
充実した朝に
今ではもう耳を塞いで太陽を叩き落す
根から生えた二つ目の心臓内部
血管と血管の隙間を骨が通り過ぎる
少しでも接触すれば川は終わる
終われずにここまできた
何かが気になる
俺の知らない奴が
俺の知らない何処かで死んだ
おれはどうもしねぇけども
天地が揺らいだ気がした
肋骨に触られた気がした
そっと口付けされた気がした
爪を噛んで迷う
指を食い千切って決断する
おれの手にはおれの心を
宿した罪の深き事を
おれの血には誰かの心が
宿された事の震えを
体中が毛羽立つ
燃える野原の楽園
灰の中に落ちた死の感動
進むべき機械樹の道
炎の中で骨だけでダンス
何か分かる前に体は表現する
愛された記憶や
愛した記憶
拭う事の出来ない
血生臭い過去の残像
知らない誰かを殺した
それがどうした
殺さなければおまえが殺されてたんだぞ
そうだけども
人を切断した時に
何かが通り過ぎた
几帳面に並べられた書物の棚
その棚に彫られた木の名前が
確かに見えた
ひかりのなかで
重なった
ただ一つの出来事
ただ一つの瞬間に
今までのすべてが
これからの何かが
重なった
その時は何も見えない
光に照らされていて
光の熱を
肌で感じるしかない
脳裏に
焼き付くのは炎のダンス
爆撃の中
骨だけで踊るその姿
熱心な信者が死んだ
戦争に反対していたのか
復讐を認めていたのか
骸骨の顔には表情がない
ただダンスが脳裏に焼き付く
暗い地下室
部屋の隅からは地下水がしたたり落ちる
ねずみもゴキブリもいねぇ
独房
捕虜の希望といえば
希望を持たなければ保てない今を止めること
希望がないとき
空が見える
生まれて初めて見る
本当の空は
深緑に黒の血管が突き刺さり
赤い眼球が飛び交う
パズルのようにハラハラと剥がれては
人の手によって再構築される 牢屋
音は0と1
匂いは汗
目玉
胴体
そのスープ
血生臭い残像が空を切る
その切れ目が目になる
目が広がって純粋な空を汚す
空は何枚も重ねられた半紙で
そこに書道で字を書く
漢字の角は出来事
曲線は感情
余白がわたし
墨が滲んだ部分に
数々の人の顔
かすれた部分に命
躍動
言葉を封じ込める力
権力
硯をする音に
権力
太股と石が会話し始める
皮膚と平面がくっ付く
階段のない建物を上る
屋根裏にはねずみやゴキブリがいっぱい
それが胸を通り過ぎる
ゲロを吐きながら屋上
頭上には
逆様の大地が広がる
雷
大地と大地のサンドイッチ
プレスされていく日常
世界
拡大する為に縮小
そのために犠牲
まずはお前から
そして次はお前の知らない誰か
愛する妻と子を失った農夫
人を殺した熱心な信者
畑に首のない案山子
ただ呆然と無力に
笑うしかないという
すべてを肯定する為に
笑うしかないという
目の前の為に
希望を捨てた人間が
人間本来の姿に再構築される
人の手によって
機械仕掛けの農作物
誰かの体内に落ちる水
水は問い掛ける
あなたは何処から来た
おそらく
わたしの知らない何処か
わたしの知らない誰かに
愛された記憶
わたしの知らない誰かを
愛した記憶
そして灰の落ちる午後
灰の中に落ちた死の感動から来た
歓喜
恵みの雨
作物はぐんぐんと育つ
装填される弾丸
吸血鬼の伝説
銀色のナイフに
銀色の銃弾
熱心な信者と
戦った歴史
悪霊の降り立った大地
わたしの皮膚
宇宙人の実験
わたしの目が1秒毎に繰り抜かれる
子供が喜ぶオモチャ
笑い声の絶えない食卓
やさしい朝
障害を持って生まれても
愛される記憶
血反吐吐きながら
変換する明日
歓喜の海
心が踊る前に体は踊る
自然のままに生きられない
そして世界はいつもパラレルワールド
時間も空間も糞食らえ
変電所に忍び込んで
停電にしてやる社会
電気に依存する前に稲妻に撃たれろ
大地と大地にプレスされろ
印刷されるのは体
支給されるのは部品
装着
世界が君を飲み込む
君が踊るその前に
君の足は君のモノではない
君の心音は
人々を通り過ぎる風
匂い
べとつく汗
焼き付く炎のダンス
脳裏に焼き付く
君がそこに居たこと
循環しておれの元に届く
根から吸い上げる水の効果で
君と共鳴したい
おれ達は機械樹
死ぬ術を持たない
循環の部品
空を切り裂く枝
枝からぶら下がるコウモリ
首吊りを試みる小鳥
それをカラスが食らう
満腹たらふく巨大化したカラスは
黒く大きな羽で空を覆い隠す
夜の訪れ
貧乏揺すりの音
地震が発生する
経済が上昇する
捕虜の生命をたらふく食った経済が
独房に希望をばら撒く
美しい空を指し示す
希望なんていらない
空なんて要らないと
言えるか未来の殺人者達よ
過去の殺人者達よ
君たちがそれを宣言しなければ
罪は終わらない
ぐるぐると回る
パラレルワールドのメリーゴーランドのように
それに乗る者たちの体を分解する
遠心分離機として奇声を上げる
君たちも奇声を上げる
それがかっこいいと誤解する
誰も知らない場所に逃げ込む
合図の見えない高架線