ごぽっ
因子

この栓を抜いたら
この水は死ぬ
この栓を抜かなかったら
この水は死ぬ




私には関係がないことなので
チェーンにかけた人差し指をくっと曲げて
生まれる音をききながす


浴槽のなかのあたし


叫ばずに藻掻かずに
苦痛なくここから
いなくなれるということ
排水溝を
なめらかに滑り落ちていけるということ
すこしも耳にのこらない
心地よく波打つ音階に
わたしはたえられない


浴槽のなかのあたし


このまますこしずつ剥がれ落ちて
とけだしてまじりあう




この舌だけが腐り落ちていく今と
ぜんぶが泥のように変質していく永遠と
選ぶことは切り刻まれることだ と







爪なんか塗らなければよかった
この赤とわたしでは
駆け抜ける速さすら違うのだ


自由詩 ごぽっ Copyright 因子 2008-04-21 14:32:24
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