ごぽっ
因子
この栓を抜いたら
この水は死ぬ
この栓を抜かなかったら
この水は死ぬ
私には関係がないことなので
チェーンにかけた人差し指をくっと曲げて
生まれる音をききながす
浴槽のなかのあたし
叫ばずに藻掻かずに
苦痛なくここから
いなくなれるということ
排水溝を
なめらかに滑り落ちていけるということ
すこしも耳にのこらない
心地よく波打つ音階に
わたしはたえられない
浴槽のなかのあたし
このまますこしずつ剥がれ落ちて
とけだしてまじりあう
この舌だけが腐り落ちていく今と
ぜんぶが泥のように変質していく永遠と
選ぶことは切り刻まれることだ と
爪なんか塗らなければよかった
この赤とわたしでは
駆け抜ける速さすら違うのだ