ちたま
山中 烏流
小指の先くらいの
小さな虫が
ほんの僅かなひかりで
戯れる頃
私も
肉眼で見たとして、
あなたの瞳くらいの
月を
眺めることでしょう
優しそうな夜風は
あなたの口調を真似て
私の左側の頬を
通り過ぎて行きます
コンクリートから
青々としたみどりが
のっそりと
はい出ていることには
この際
目を、つむりましょう
さっき
すれ違ったばかりのひとと
また
すれ違うことに
意味はありますか
あなたの瞳に
よく、似ている
まんまるで
何も映らない球に
夢を覚えることの意味は
ありますか
軋んで、音を誘う
このバッグの紐が
肩に
食い込まなくなったとき
それは
この地上から
私がいなくなったとき、と
同じような気がします
泣き声が聞こえますか、
この空気は誰の吐いた悲しみですか、
あの果ては目に見えてはいけないものですか、
その祈りは何故こんなにも、
寂しいのですか
地球の底で
あなたと泳いで
顔を上げたときに
全てが
終わっていたとしたら
それはそれで
中々に
綺麗だと思いました
でも
その裏側では
あなたのことを
何一つ知らなかったり
すぐに
忘れてしまうような
この風景も
愛していたりします
せめて
世界の終わりまでは
あなたと
泳いでいたいのでしょうか
それとも
世界が終わるときに
あなたと
手を繋いでいたい
だけ、なのでしょうか
指切りをすれば
その、一瞬あとで
全ては夢になって
もう
触れなくなるような
夢を見ています
あなたに
囁いたであろう言葉も
数秒先には
忘れてしまう世界で
息をしています
この風景が
見えなくなったときは
あなたに
溶けてしまって
一緒に
呼吸をしてもいいと
言って、ください
それだけで、私は
世界が
美しく見えることに
先日
気付くことができたのです
もうすぐ
光の側からも
瞬きの音が
消える頃になります
ほんの少しだけ
あなたに
会いたくなる時間とも、
言います
温かくして
眠っているでしょうか
あなたの瞳が
雲に隠れてから
私は
お布団を敷いて
身を、横たえることを
誓います
またあなたと
出会うために、と