雨のものがたり
ふぁんバーバー
仕事の帰り道
遅くなって借りた傘をさすと
すこし前を地下鉄のとおい駅まで
歩いて行くふたりは
みんなにこそこそかげぐちを言われてる
おんなのひとのほうはついこないだ
離婚した
おとこのひとのほうはずっと
彼女のそばにいつもいて
まわりがどう思うのか気にしてもいないのか
ふたりで同じ日に
年休を取ったりしてた
そのうち結婚するのだろうか
よく見れば
ふたごのように
よく似ているふたりだ
出会うのにおそすぎるのもはやすぎるのもない
ただそのとき
あっ
といっしゅん
こころがしずんで
はねあがるだけのこと
わたしのほうが
地下鉄の駅がちかいので
階段を下りながら
なかよく歩き去るふたりの
残り香を胸にくゆらせた
なにを笑い
なにをばかにするのだろう
まわりのひとはみな
愛をしらないのだ
愛はいつでも美談だ
あのふたりのものがたりも美談だ
ほかのひとは
だれにも
読むことのできない
ものがたりだ