夜をわたる
木立 悟





すぎてはすぎる
曇のかたちを聴いている
水の名前に
拳をひらく


静かに紅く
夜へ降る曇
さらに暗く さらに静かに
さらに遠く さらに遠く


膝の光 銀の道
原の渦と声の舵
手のひらのめまいを逆さになぞる
夜と錆のはざまの会話


長い髪の鳥がさえずる
地から曇への時間と車輪
今日にかぎって黙る水たち
朝を悼む非の朝の列


土は熱く 息は焼ける
まばたきの冬 岩の軋み
鉄を編む草 枯れ夜を数え
指はくだもののにおいに濡れる


彗星の道に砕かれて
夜明けは川へ降りそそぐ
夜から出られぬ生きもののふところ
鎖が鎖をわたるかがやき


橋のはじまりと終わりの夜に
いくつもの音が触れてゆく
低く密な雨の巣のあつまり
昇りつづけるもののとどろき


水に映らぬ曇が増え
空は辺から明るくにじむ
雨につぶやく手のひらを
曇の光はすぎてゆく














自由詩 夜をわたる Copyright 木立 悟 2008-04-19 16:01:01
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