ひとひら、薫る
見崎 光
桜の淡さ
光陽に咲く
冷たさを残す入り口で
若葉と戯れる春風は
蕾の鼻先をくすぐった
弾ける音が聴こえてきそうな
澄んだ青空の下
起きているのか眠っているのか
定かではない雲と心情
鏡に映る乏しい笑顔に
精一杯の元気をそそぎながら
鳥の声を探してみたりして…
か弱い薫りはまだ
誰の心も掴んでいない
春に酔う桃色の花弁でさえ
誰かを捉えてはいない
光陽の画
ヒールを鳴らす影
ゆったりと過ぎる雲
全ては
春ののどかなシーン
自然の摂理
ひとひら
桜が開くたび
薫る
誰かの面影
ようやく落ち着いた素振りを
誰かが攫ってゆく午後のひだまり
繰り返す鼓動が確かにしていく
さくら
桜
ひとひら
薫る
光陽と繋ぐ月夜の霞
漂う薫りは柔らかく
誰かを想う蕾の迷い
日和に弾む淡い夢