孤猫
三奈
なまえ、ください。
道路の上に横たわる、かぞく
駆け寄った。悲しくて、悲しくて。
もう、しんでいるのでしょう?
あぁ、どうかこれ以上
ひかないで、踏まないで
魂は、お空にのぼって
雲に溶けた
おかあさんは
青に溶けた
おとうさんは
月に溶けた
さぁ、ぼくは
何に溶けるの?
迫ってくる、車
頭に浮かぶ、ただ一つ
叶えたかった、ゆめ
(ずっと、なまえが、ほしかった)
(ぼくと、おかあさんとおとうさん、それから、いもうとの)
運転手の焦る表情
響き渡ったのは、急ブレーキの音
さて、ぼくがしぬのが先か
車が止まるのが先か
春の風が優しく吹いて
ゆっくりと目を閉じた
怖くなんてない、でもね
なぜだか無性に、泣きたくなった。