春 また 気球
木屋 亞万

さよならは言わない
青葉芽吹く春に
さよならは言えない
銀杏の赤ん坊が指を
くるくると丸めて
いくつも幾筋も
重なり合って
曇り空に緊張感を

旅立つならば
後ろは振り返らない
足が動かなくなるから
思った以上に心は響く
吐く息すら震えて
鼻には想いが詰まる
目が痒いのはただの
アレルギーではない

肩の力を抜いて
とりあえず前へ歩く
適当に左に曲がったり
階段を進んだりして
花びらは人懐っこく
胸の裏がくすぐったい
踏んでしまう事を
どうか許して欲しい

太陽が覗き始めた正午
遥か遠く空を見れば
飛行機が兎のような
可愛い尾をつけて飛ぶ
西の空で虹色の気球が
たくさんの人に見送られ
遥か彼方へ消えていく

誰ひとり
さよならは



自由詩 春 また 気球 Copyright 木屋 亞万 2008-04-15 00:29:15
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