歪む
ポッケ

ケータイに着信があった

番号は出ず、NOKIAと表示されていた

もしかしたらと思って

電話に出て「はい」とだけ応えた

聞きたかった声がわたしの名前を呼んだ

わからないフリをして「誰?」と尋ねる

あの人は構わずいつものように会話を続ける

周りの喧騒が邪魔で

声が聞き取りづらい

ちょっと、まって

わたしはケータイを耳に押し当てたまま

人混みをぬけ少しでも雑音が入らないところを探す

それでもノイズが大きくなり

とうとう切れる電話

祈るような気持ちで

番号の出ていない着信履歴を辿ってリダイヤルする

呼び出し音が鳴って

優しいあの人の声がする

口元がほころぶ

ふと気が付くと持っていたはずのかばんは無く

見知らぬ街に立ち

どこへ帰ろうとしていたのかもわからない

わたしは違和感に気付く、

ああ

まだこの電話がつながっているうちに

はやくあの人に伝えなければ

わたしは必死で耳にケータイを押しつけて言った

もしもし もしもし もしもし わたしは






さっきまで返ってきた声は消え失せて

わたしは夢のなかにいることを確信する

絶望とその涙とともに目を覚まし

抱えていたものの重さを知った





自由詩 歪む Copyright ポッケ 2008-04-14 05:22:41
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