遺書
山中 烏流

 
 
 
 
 
 
 ・三日前の話
 
 
私が
指先のみの力で
空を切ったとき
その軌跡は
柔らかなひかりになって
木漏れ日の影の部分を
踏んで行きました
 
公園の片隅で
未だ、呼吸をしている
小さな亡きがらには
目もくれずに
行きました
 
 
頭上から
押し潰すかのように佇む
あおすぎるくらいに
あおく見える空は、
見詰めるほど
恐怖に変わります
 
人込みが心地よくなれば
その光景も
いつかは
私にとっての楽、に
なりえるのでしょうか
 
 
 
 ・今日の話
 
 
何とは無しに
裸足のままで
近くのコンビニまで
卵を
買いに行きました
 
店員が
ほんの少しだけ
頬を引き攣らせたのは
私のせいでしょうか
 
 
近頃は
きゃらきゃらとした
子供の笑い声が
昔よりも、随分と
聞こえなくなった気がします
 
ともすれば
まだ公園には
あの時の亡きがらが
横たわっているのでしょうね
 
そういえば
あれは、何の
亡きがらなのかしら
 
 
 
 ・明後日か、それ以降の話
 
 
その日はきっと
雨が降っているから
傘を忘れずにして
温かい服装にすること
 
もしも、まだ
亡きがらがあの場所に
横たわっていたら
今度は迷わずに
抱きしめること
 
 
家に帰ったら
お気に入りのこんぺいとうを
三粒食べてから
眠りにつくこと
 
次の朝が来る前に
必ず、自らを
 
 
 
 ・いつかの話
 
 
長く長く伸びた爪を
爪切りが
見当たらないので
噛み切ってみます
多分
血は出たりしません
代わりに
記憶が流れたりします
 
そのうちの
一雫に触れたりして
ひとしきり遊んだあとは
幼子のように
また
眠りにつくことでしょう
 
 
そしてどうか、
そのあとは
起こさないで下さい
そして
見ないふりをして
そっと
その場を立ち去って下さい
 
何か、透明なものが
伝ったとしても
全て気のせいですから
 
 
忘れて、下さい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


自由詩 遺書 Copyright 山中 烏流 2008-04-14 01:43:24
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