名前
アンテ


いつもひっそりと
わたしの庭を守っていてくれた
垣根の木
なんていう名前だっただろう
とつぜん気になって
落ち着かなくて
たしか図鑑があったはず
なのに
本棚にも押入れにも
どこにも見あたらなかった
そうだ
どこかに名札がついているかもしれない
垣根に顔をつっこんで
悪戦苦闘していると
向こう側から笑い声が聞こえてきた
葉っぱをかき分けていくと
枝のあいだに
図鑑がひっかかっていた
やれやれ
いったいなにしているんだろう
でもまあ
よく枯れずに頑張ってくれたね
もう海水は来ないからね
葉っぱをなでたとたん
風に枝がいっせいにゆれた
縁側にすわって
お茶を飲みながら
図鑑のページを開くと
どこをめくっても
わたしの写真ばかりで
木や花などひとつも載っていなかった
表紙をなんど確かめても
植物図鑑と書いてあるし
まあいいや
だれかの悪戯なのだろう
図鑑を枕がわりに
横になってうとうとしていると
垣根のほうから
また笑い声が聞こえた
ぽとん
音がして
柿がひとつ庭を転がってきた
手がとどきそうなところで止まった




自由詩 名前 Copyright アンテ 2008-04-13 23:34:33
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