ふしあわせなドーリー
ふたば







クラブ仲間と遊んでいても
ドーリーはひとりぼっち
パブの女の子たちは貝殻のようで
手ざわりだけがいいと思う
どんな奴の話も上手に聞けるのに
なんだか仲間たちの腕にある
時計の輪っかになったような気がしてる

公園の草むらで寝そべっていれば
ドーリーは遠くのもっと大きな時計台になれる
すっかり数字になっている彼のところへ
絵描きがやって来て上手に描いてくれたけれど
声なんてかけられたって彼には
酔っ払いの相手をするより面倒なはなし
そんなの受け取ったりはしないだろうに

両親はいつだって心配する
この子はもしかずっと前から
誰ともいることがなかったのではないか
兄弟のいないせいなんかじゃなくて
まるでじぶんの人生を
小さな古本屋の棚にでも置きっぱなしにしてる
書き手も読み手もどこかの誰かで

花屋の娘と結婚しても
ドーリーはひとりぼっち
高台に大きなお家を買った
奥さんは裁縫とお掃除が得意で
彼はじぶんにおめでとうって言って
ありがとうもちゃんと言う
お隣りのような喧嘩なんてしたことがない

可愛い男の子が生まれたあとも
ドーリーはやっぱりドーリーのまま
じぶんとそっくりにわらう顔が
堪らず恐ろしくなったもので
行きたいところがあるわけでもなく
そのうち帰ってこなくなっちゃった
旅先でからだごとおかしくしちゃった

ドーリーがひとりぼっちで死んだあと
大きな時計台には何も変化が訪れない
町の古本屋が珍しく掃除をしたくらい
公園の絵描きは少し名前が売れるようになって
ドーリーの絵は「しあわせな男」という題を付けられて
美術館の廊下の隅に飾られている









自由詩 ふしあわせなドーリー Copyright ふたば 2008-04-13 19:03:41
notebook Home