おまえたちは黄色い海の中へとうずもれてゆく
Utakata

時計の針なら 少しのあいだ
止めておいてあげる
だから

世界を愛した子供らよ
駆けて
遊べや






  (一面のひまわり畑
   おまえたちは
   その中心に生えた一本の菩提樹を囲んでは
   ひとりずつ黄色い海の中へとうずもれてゆく)





やっと
おまえたちはこの場所に辿りついた
彼らが世界と呼ぶ この場所に





   (地平線の向こうで遠雷が聞こえる
    夕立が来るまでには けれど
    まだしばらくの時間があるだろう)





おまえたちが むかし
鰭を捨てた魚であり
海に浮かぶひとつの油珠であり
火のような星に降り注いだ水のひとつの滴であった
そのことを
おまえたちはまだ やすやすと語ることができるのだろう





   (薄黒い雲が地平線から登ってくる
    雷の音が少しずつ近くなってくるが
    おまえたちは全く頓着せずに
    ひまわり畑のところどころで知らない歌を唄っている)





おまえたちに
海に降るすべての雨と
森の奥で倒れてゆく樹の音のために
泣いておくれと頼むのは
傲慢なことだろうか
その瞳の奥に死を見る
鯨や象たちの 最後の鳴き声のために





   (おまえたちがいつか
    男になり 女になるとき
    おまえたちは長い廊下を歩きながら
    身に付けた風景を一枚ずつ脱ぎ捨てていくのだ)





全ての記憶は痛みなのだと
言ったら おまえたちは
笑うだろうか





    (幼い頃のおまえたち自身の骨を
     おまえたち自身が掘った穴の中へと静かに埋めるのだ)





笑わないのなら
せめて少しだけ祈ってやってほしい
もし笑うのなら
そのまま歌を続けてくれないか
記憶さえされなかった痛みたちのために





   (夕立がとうとう降り始める
    おまえたちは一斉に樹の下へと走り始めるが
    それでもときどき空を見上げては何事かを叫んでいる)





ここを
世界だという人がいれば
可能性だとも
過去の残骸だとも言う人がいて
それをただ愛せとおまえたちに言う 権利は
誰ひとり持たない けれど





   (黄色い海が揺れる)





ほんとうは
夕立を逃れる必要など
おまえたちは少しも持ってはいないのだ
樹の下でじっと待つには
この場所はあまりにも
あまりにも はかなすぎるのだ
この時間はあまりにも
あまりにも 短すぎるのだ




   (ひとりずつ
    おまえたちは菩提樹の下から走り出てゆく
    生温く激しい雨の中で
    おまえたちは
    おまえたちがここに来る前から知っている歌を唄いながら
    笑って地平線のほうへと走り去ってゆく)





時間くらいなら 少しのあいだ
止めておいてあげる だから
世界を愛する 子供たちよ
駆けて
遊べや









自由詩 おまえたちは黄色い海の中へとうずもれてゆく Copyright Utakata 2008-04-13 04:33:47
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