素描
もも うさぎ

   
ケンタウルスの夜に


ケンタウルスの夜に
星屑を降らせよ

砂糖菓子のように甘くかたまって
壮大な橋をつくれ

研ぎ澄まされた露を舐めて
硝子の角を指先に絡ませて


ケンタウルスの夜に

星屑を降らせよ















あなたの声は遠い
受話器を強く耳に押し当てて
つぶれたピアスがとても痛い

それでもあたしは
そのひとつひとつの吐息の音だけを頼りに
星明りの下の砂漠に
光る一筋の砂の上をさまよいゆくように









 「素描」




今度の素描は自信があるのだ、と言って
彼が持ってきたスケッチブックを手に
私は今 困惑している

彼の目はいたずらを覚えた天使のように
年齢に合わない くるくるとした輝きを帯びて


失礼ですが これは楽譜では?


と 問いかける私の声は
静けさの森の奥に吸い込まれていくのだった


彼は しい、と 口元に一本指を立て
耳を澄ませと仕草する

白黒の鍵盤から 音がほろほろとこぼれる

羽ばたき、あるときはけたたましく鳴き、
印象派の空へとのぼる その小さな体が去ると

また森は 静寂の中に



ああ


幼き日の私が取り残されている















 
〜素描〜


自由詩 素描 Copyright もも うさぎ 2008-04-13 02:41:44
notebook Home