素描
もも うさぎ
ケンタウルスの夜に
ケンタウルスの夜に
星屑を降らせよ
砂糖菓子のように甘くかたまって
壮大な橋をつくれ
研ぎ澄まされた露を舐めて
硝子の角を指先に絡ませて
ケンタウルスの夜に
星屑を降らせよ
あなたの声は遠い
受話器を強く耳に押し当てて
つぶれたピアスがとても痛い
それでもあたしは
そのひとつひとつの吐息の音だけを頼りに
星明りの下の砂漠に
光る一筋の砂の上をさまよいゆくように
「素描」
今度の素描は自信があるのだ、と言って
彼が持ってきたスケッチブックを手に
私は今 困惑している
彼の目はいたずらを覚えた天使のように
年齢に合わない くるくるとした輝きを帯びて
失礼ですが これは楽譜では?
と 問いかける私の声は
静けさの森の奥に吸い込まれていくのだった
彼は しい、と 口元に一本指を立て
耳を澄ませと仕草する
白黒の鍵盤から 音がほろほろとこぼれる
羽ばたき、あるときはけたたましく鳴き、
印象派の空へとのぼる その小さな体が去ると
また森は 静寂の中に
ああ
幼き日の私が取り残されている
〜素描〜