わたくし問題
六九郎
御屋形様のために
一所懸命にいくさを戦ったのは
わたくしではありませんでした
旦那様のために
私を滅して御奉公したのは
わたくしではありませんでした
天子様のために
一撃必中で敵艦に突っ込んでいったのは
わたくしではありませんでした
社長さんのために
過労死するまで働いたのは
わたくしではありませんでした
尊師様のために
いろんな場所で薬品をばらまいたのは
わたくしではありませんでした
女王様のために
足の指を舌で舐め清めたのは
わたくしかもしれませんでした
強くて
正しくて
大きくて
なにかあたたかな光の中に
卑小なわたくしが飛んで入り
溶け合うようにこの身を燃やしてくれたなら
どんなにか幸せなことであったでしょう
目もくらむ心地よさであったでしょう
わたくしのわたくし問題は解決し
もうひとりでいいちこを舐めながらこんなこと
書いていなくて済むんですから
さっそく明日から身も心も軽くなって
戦ったり働いたりできるんですから
詩の中に書いてしまった私や俺や僕もすべて
消しちゃうことが出来るんですから