偽物
COCO

あなたは昔言いました

…お前、偽物だ。と

寂しげにぽつり言いました

…お前、偽物だ。と


私 言い訳を探して

だってあなたは脳の病気だし
寝たきりでろくに口もきけないし
歳も歳だし
何より久しぶりだし
だからほら 忘れちゃっただけょね

探して笑ったけど

あなたはもう 私を見ようとはしないから
並べた言い訳は 春の風に掠われちゃって

私 あなたに会いに行けなくなったの

あの日 帰りの電車の中で妙に悔しくなっちゃって

そうよね。

仕事となれば私 自分にくっついた役職なんかを全うする為 とりつかれた様に働いて
生意気だとか 冷たい人なんて陰口はもう聞き慣れたわ なんて涼しい顔してる
そんな人の顔してる

そうよね。

ひとたび仕事を離れれば私 恋人の前でぶりっこになって 子供みたいにはしゃいでみたり いつだって顔がつるほど笑ってる
そんな人の顔してる

そうよね。

一人になれば私 自嘲の笑いをもらしては ため息の実を割ってみたり 長い夜を何度も越えては泣き濡れて 毛布なんかにうずくまってみたり
そんな人の顔してる

でもそうして 色んな顔作って操る事が「偽物」なら
世の中みんな偽物よね

どれが本当の…?
そんな疑問も馬鹿らしい

全ては心が知っているのよ

なんて開き直ったの


でもまた同じ様に日々を生きたら こんなにも「偽物」に怯えてるから

私 あなたに会いに行けなくなったの


季節を跨いで蝉は鳴き
あなたは静かに向日葵揺らす風になったのね

私 「偽物」の意味を探せないまま

私 偽物のまま


自由詩 偽物 Copyright COCO 2008-04-09 22:48:32
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