さいごのしじん
ゆるこ

 
悶々とした舐めるような空気の中
うっすらと汗をかき、ほてった頬を林檎にした
 
空白に紫煙を撒き散らし
群青色に染まった人々が次々と電車に飛び込んでいく最後の日
 
盲目の少女が一羽の鳩の首をしめた
 
 
赤い放物線が
雨上がりのような爽やかさの中飛び交う
鳥か、人か。
分からぬまま。
 
 
 
五百万画素の鋭利な映像が
目の前を何度も何度も遮り
なんとなくカレーを食べたくなったのは
ここが池袋だからかもしれない
 
 
こんな美しい最後の日に
私の下は血を吐いて
当たり前の自然の摂理が
やけにリアルで泣けてきた
 
 
揺れるのは青白い君だけだ
笑わないのは円を描いた土だけだ
 
波間に浮き沈みする赤ん坊が
泣いてる幻聴は、消えた今も続いてると
 
 
 
琥珀のようにこの世界が固まれば
私はこうやって歌うこともなく
ただ淡々とビルから飛び下りる
一つの固まりになっていたのか
 
 
誰も現像できないフィルムに
何度も最後を焼き付ける
 
真実はこの世界だ
 
 
 
波の音が、覆い被さる
 
 
 
レンズ越しの世界が、今日一番の鮮やかさをみせた、
 
午前三時。
 


自由詩 さいごのしじん Copyright ゆるこ 2008-04-09 18:30:03
notebook Home 戻る