エメラルド
たちばなまこと

パンの焼けるにおいだけが明るい
苔が吐く息だけが甘い
朝になりかけのままの朝
小石をなげる雨のいたずらに
幾たびも眼を開ける

エメラルドの雨を泳いで渡る
赤い自転車は泣くだろうか
傘をさす手が無い
背負うものが多すぎて

春のエメラルド 溶けて
コートに浸み透っては肌を冷やす
思うだけで足は 強さをためらっている

手のひらにエメラルド
テーブルに並べて
雨の台詞をひとつずつ 聴いている

瞳にエメラルド さして
今日の日をハートに 描いてみる

雨上がりの教会の
牧師の瞳のエメラルド
くるおしく なつかしく 想う

ハートにエメラルド 満ちて
肋骨のはざまにさぐってみる
なか指に浸み移る半透明
からだが雨になるように




自由詩 エメラルド Copyright たちばなまこと 2008-04-09 00:44:12
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