気の早いひと
恋月 ぴの

先週末に桜が散ったばかりなのに
あなたは
物置から引っ張り出したビーチパラソル
具合を見たいからと
これ見よがしに拡げてみせる

どうやら使えそうだな

アルミパイプの椅子まで組み立てて
こっちへ来いよと手招きする

わたしって猫だけど猫じゃないよ

不安定な椅子に腰掛け何をするでもなく
もっと若い頃ならば
お互いにちょっかいでも出すのだろうけど
人生の瀬戸際間近のふたりだから
取り壊しがはじまった銭湯の傾いだ煙突を眺めても
溜め息ひとつさえ出やしない

どうせまた物置にしまうのでしょ

いや、直ぐにでも使うことになるよ
このパラソルで防ぐのさ
海の向うから飛んでくる黄砂とか
死の灰とか
街宣車のけたたましい騒音
そんなものの総てを

こんなもので防げるのかな

銭湯の傾いだ煙突をかすめるように
ジェット雲幾筋も延びて

まだまだ先のことだと思っている
わたしたちの心に寒の戻りの風が吹く



自由詩 気の早いひと Copyright 恋月 ぴの 2008-04-05 23:58:28縦
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