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aidanico

/事実、あるいていた。
海岸線と海岸線の隙間に、隠れるようにちいさく。
裸足で踏んだ熱い砂浜はコンクリイトのように固く。

/事実、みつけていた。
半田鏝で容易にべっとりと結び付けられた簡略を極めたヒューマニズムというものを。
私には到底書けないものを、理解できなくとも擬似的に理解したとして扱われる感覚を、沢山の使えない旧漢字を。

/事実、みとめていた。
私は寂しい人であると。三角フラスコから伸びる細い護謨のチユウブのような、若さの気泡の抜けない、亦折れることを嫌う、信じ難い悲劇的な終末論のような(そして其れは余りにも容易く想像できる範囲の)思考を、/
回避出来ずに、叉扉を叩こうともせず、ドアの金属のノブに眼を向けることもすっかり辞めて仕舞って、好きな作家は?と訊かれて迷わずニイチェだとか、トルストイだとかを挙げるような、挙げただけで本当は最初の一ページ目をすら読むことばかりが悔まれて仕方が無い、という事ばかりではなく、文頭に来る鍵括弧や句読点果ては★マークにすら頭を昏倒させ、(逆巻きにインデントを!/!をトンデン、イ/)(ワタシハ明治三十七年ノ屯田兵)段組は三角のピラミッド!(ワタシハ幕府ニ隔離サレタ明治三十七年ノモウ老イ先短イ六十八ノ屯田兵)エンクミは世紀のマホメット!(ワタシハ幕府ニ隔離サレタ明治三十七年ノモウ老イ先短イ六十八ノ棒幅跳ビノ得意ナ屯田兵)(ワタシハ幕府ニ隔離サレタ明治三十七年ノモウ老イ先短イ六十八ノ棒幅跳ビノ得意ナ屯田兵自己ベスト六メートル 十四(世界新))(サア飛ンデ、ソノ大キナ重圧ノ塀ヲ)(ワン、ツー、スリー!)

ポールが揺れる、後二ミリ、セイシ、スルカ!
「まさに静止が生死を分ける瞬間です、おっと、ここで日本代表トクガワヨシノブ(明治生命、68)掌でその棒を制止、なんとも大胆な反則、常軌を逸した反則行為です!」

/其れが最早絵であるのか詩であるのか演劇であるのか絵を擬態した詩であるのかはたまた演劇を擬態した詩であるのか最早詩ではなく演劇を擬態したポール・ニューマンであるかすら判らない。前も後ろも見失って現れたのは記号でも無く今や需要を霞ほども持たずに重宝されている薄っぺらな雑誌でもなくスタンディング・マイクでも無かったことだけは確かなのですが、その先をまだ識らないのです。

/事実、その時全てが全て九官鳥の語る人間論のような物だったのです。いくら無知とは狡い事だとヒューズが飛んで音割れした儘罵られようとも。

………首を!/
            


自由詩 括る Copyright aidanico 2008-04-05 15:52:14
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